初代YubiKeyは2008年に発売されました。「ubiquity(遍在)」という言葉からインスピレーションを得て、全ての人がシンプルで安全なログインを利用できるようにするという使命を背負った製品でした。 当時の当社は10人にも満たない小企業でしたが、戦略は実にシンプルなものでした。 ほんの一握りでも大手テクノロジー企業と緊密に協力してYubiKeyの技術を発展させることに注力すれば、全ての人にとってインターネットをもっと安全なものにできる、というものです。
それから12年後の今、当社はその目標に近づきつつあります。 Yubicoが初めてのFIDO対応セキュリティキーをリリースした2014年以降、今では全で使いやすての主要プラットフォームおよびブラウザーがYubiKeyとFIDO、そして当社が主唱してきたWebAuthn規格に対応しています。 FIDOと互換性のある認証ツールも続々と市場に参入してきており、コンピューターやスマートフォンに内蔵されるものも増えてきています。まさに当社が思い描いていた姿です。 これらの規格を採用する組織が増えることで、エコシステムが継続的に成長し、ひいてはYubiKeyのユーザー様にとってもメリットとなります。
全ての認証ニーズに応える魔法の解決策などはおそらく存在しませんが、YubiKeyは可能な限り多くのケースに対応できるよう設計されています。 最高レベルのセキュリティと使い勝手、耐久性を実現するための継続的なイノベーション、そしてお客様やパートナー様、ユーザー様との協力が直接実を結び、現在のYubiKey製品ラインナップが出来上がりました。 設計・生産においてYubicoがこれまで行ってきた選択とその理由を、以下にまとめてみます。
外付け認証ツールにより攻撃対象領域を最小限に抑える
現在ではFIDO認証方式がスマートフォンやコンピューターに直接内蔵されるようになっています。消費者への普及や小規模かつ多種多様なユースケースという観点では良いことです。 ただし、こういった多目的コンポーネントでは、攻撃のベクトルが増加するほか、インテルのSpectre問題のような潜在的なセキュリティの問題も伴います。
物理的セキュリティとデジタルセキュリティどちらの専門家も、防御を強化するためには攻撃対象領域を最小限に抑えることが重要であると同意しています。 オンラインアカウントのセキュリティ改善のため、当社は、認証と暗号化のみにフォーカスし、インターネットに依存しない外付け認証ツールとしてYubiKeyを製作しました。 内蔵型の認証ツールと比較して、YubiKeyはバッテリー不要で機能し、全てのコンピューターとスマートフォンで動作し、手頃な価格のデバイス横断型RoT(信頼の基点)となるように作られています。
デバイスの小型化で環境に優しく
YubiKeyは、堅牢な一体型のデザインで、バッテリーも可動パーツも搭載しない長寿命のデバイスとして設計されています。 最人気のYubiKeyキーチェーン用デザインは、クレジットカードほどの軽さ。出荷時の体積とカーボンフットプリントを最小限に抑えるため、全ての製品とパッケージを可能な限り軽量・薄型に設計しました。
安全で使いやすいフォームファクター、USBとNFC
スマートフォンやコンピューター、セキュリティキーといった一部のFIDO対応認証ツールでは、認証フローの最中にBluetooth Low Energy(BLE)通信を使用します。 しかし、Bluetoothはもともと音声のために作られたものであり、セキュリティは想定していません。 最初のBLEの仕様が策定されてからセキュリティ面の改善は行われてきているものの、数メートルの範囲内で危険にさらされるリスクはやはり存在します。 また、BLEによってユーザー側の操作が煩雑になり、ヘルプデスクへのサポート依頼件数と関連コストが増加することにもなります。
FIDOベースでUSBおよびNFCのYubiKeyを大規模に導入した結果、アカウントの乗っ取りがゼロになり、サポート依頼件数が92%減少して、コストが数千万ドル削減されたという研究あります。
セキュアエレメントが実現する強力な物理保護機能
一般的に、より多くの人がコードを精査できるようにすることがセキュリティ面で望ましいものの、残念ながら、Heartbleedなどのオープンソースのセキュリティについて大きな問題があるのも事実です。
初期のYubiKeyは、市販のUSBコンポーネントをベースに構築されていました。 YubiKeyの物理的なセキュリティを改善するため、当社は後に全てのハードウェアをセキュアエレメントで構築することにしました。ICチップベースのクレジットカードやパスポートにも用いられているものです。 セキュアエレメントを使用することでコンポーネントの出所の真正性を示すことができ、物理的なデバイスを使用する詐欺犯罪でコードを抜き取られたり改変されたりすることを防止できます。
最先端のセキュアエレメントでは、チップが独自開発になり、ドキュメンテーションやツールの点で制限されているため、オープンソースでの実装が不可能になっています。 Yubico製品の品質と完全性を守るため、当社のセキュリティおよびエンジニアリングチームは、社内とサードパーティによるセキュリティレビューを継続的に実施しています。
生体認証とPINが共存するパスワードレスの世界
FIDOとWebAuthnにより、そのうち複雑なパスワードを忘れることができるようになるでしょう。そして、強力な公開鍵暗号化によって、パスワードの代わりに物理的なFIDO認証ツールを用いる日が来るはずです。 これらのデバイスは、初めての強力なファクター(持っている)となり、PIN(知っている)や生体認証(身元)と組み合わせることが可能になるでしょう。
生体認証は便利なものではありますが、指紋のような静的イメージは必ずしもPINより安全というわけではありません。 そこでYubicoでは、今年中に指紋とPINの両方に対応するYubiKey Bioの発売を予定しています。 この製品はスリムで堅牢な設計となり、現在の市場にある製品よりもセキュリティ機能が向上します。
大切なサプライチェーン
Yubicoの製品は米国とスウェーデンで製造されています。 この2ヶ国を選択したのは、製品の完全性を確保することを意識したためです。 FIDOが認証するのはあくまでも相互運用性であり、セキュリティに関する方針の設定や製品セキュリティの審査については今のところ行っていません。 そのため、信頼するベンダーの選択は、ユーザーとサービスプロバイダーに委ねられています。
進化し続ける認証機能
YubiKeyは未来のことを考えて設計されています。 現在から未来へのシームレスな移行を可能にするため、当社ではひとつのデバイスに従来と最新の両方のセキュリティプロトコルを盛り込みました。
一つの認証ツールで幅広いシステムやサービス、アプリケーションに対応できるようにするため、YubiKeyは固定パスワードやワンタイムパスワード(OTP)、スマートカード(PIV)、OpenPGP、FIDO U2FおよびFIDO2に対応しています。
Yubicoの新しいYubiEnterpriseサブスクリプションモデルは、新モデルや新機能の導入時に、事業者様がお持ちのYubiKeyを一定割合でアップグレードできるサービスです。
全ての人に安全なインターネットを実現するという使命を求めて
FIDO対応認証ツールの市場成長に伴い、当社ではどの製品を選べばよいかという質問をお客様から受けられるようになっています。 当社の通常な対応としては、FIDO2とWebAuthnに対応し、入手可能な認証ツールをいろいろ試して、ユーザーからのフィードバックと導入に関する統計を活用して判断していただくようにしています。 オープンスタンダードですので、サービスプロバイダーやユーザーは一つのベンダーや設計オプションに縛られることなく、市場の進化に合わせて選択を変えていくことができます。
Yubicoは、引き続きイノベーションに努め、オープンスタンダードを推進し、お客様第一の精神を持つことで、市場占有率と長期的な信頼を獲得して参ります。